「でも受けるんでしょ?」
羽月が確認するように訊ねた。わたしは自嘲するみたいに少し笑ってうなずいた。
「うん。まあね」
「なら、あたしも」
ええ? そんなに簡単に決めちゃっていいのかよ?
国公立大の試験は前期と後期のたった2回しかないうえ、前期しか開催してくれないところもあるんだよ。前期でコケただけで、最悪、滑り止めの私大に行くしかないという場合もあるのだ。これは、けっこうリスキーなことだ。自分で言うのもなんだけど。
人生においてこんなにも重要なターニングポイントを、そんなふうなノリで決めちゃっていいのかな。ほんとにわかってんのかなあ。
「守りには入らないことにしたの。“アンパイ”は嫌」
羽月がやんちゃに笑った。大きな目がアーモンド形にきゅっとつり上がっている。
「だって奈歩が、そうやって生きてるから」
羽月はたまにわたしを教祖みたいに扱うね。ただのクソダセェ人間なのにね。
でもうれしいんだよ。誰のためにも存在しえない、役立たずなポンコツを、冗談でもそういうふうに言ってくれること。羽月のためだけの宗派を開こうかしら。
「……なにそれ。かわいいやつめっ」
わたしが大嫌いなわたしを、それでも大好きでいてくれてありがとう。
わたしが大切に思っているわたしを、同じように大切にしてくれてありがとう。
だからわたしも羽月を大切にしたい。慈悲深い教祖のように。優しく世界を照らす星空のように。
せめて、この大きなふたつの瞳に映っているときのわたしだけは、完璧にかっこよくありたいと思う。