「2組は奈歩の魔女役がハマりすぎてて最高だったな」
もうずいぶん年季の入ってきている黒い自転車のペダルを、みっちゃんの長い両足がゆったりまわしている。夏と秋のあいだの生ぬるい風と、その涼しい笑い声を、わたしはみっちゃんの背中越しに感じていた。
文化祭が終わった。つまり、夏が終わった。本当の意味で。9月上旬のこの時期はまだまだ暑いけど、空気感がやっぱり夏とは違うなと思う。秋のにおい。夏の足音が徐々に遠ざかっていく。
「それってどういう意味サ」
ふてくされたように答えた。みっちゃんは大げさに笑ってみせた。背中が揺れる。
「……あーあ、最後の文化祭が終わったのか」
笑いながら、しかししみじみと、みっちゃんが言った。
「6組は最後に優秀賞もらえてよかったじゃん」
きょうの午後イチの公演だった『現代版不思議の国のアリス』を思い出す。もちろん最前列のドまんなかで観劇した。棒読みすぎるみっちゃんが全校生徒にウケていたときは、なんだかわたしが得意な気持ちになった。
「おれの白ウサギがよかったんだろうな」
「あー、みっちゃんは前歯が大きいのがほんとにウサギっぽいもん」
「喧嘩売ってるだろ」
売ってないよ。みっちゃんの大好きなところを言っただけだ。
「あ、水樹くんの帽子屋はおしゃれだったね? かわいかったし」
「あいつはオイシイとこ持っていきすぎ」
たしかに妙にキマっていたもんなあ。ふだん、水樹くんのことなんかこれっぽっちも素敵だとは思わないけど、帽子屋はほんとによかった。華があった。文化祭マジックだ。
「ねえ、でもさ、これを機にかわいい恋人ができるといいよね、水樹くん。彼女欲しいって言ってたもんねえ」