ハロハロで冷えた腹を抱えながら炎天下の道を帰った。花純ちゃんはこのまま塾へ行くらしい。6組も文化祭の練習をしていたようなので、みっちゃんに一緒に帰ろうと連絡しようか迷ったけど、きょうはそんな気になれなかった。
ケータイがぶるると震えだしたのは、ひとりアスファルトの照り返しと闘いながら駅に向かっている途中。
ふだんメールばかりで、あまり通話には使わないので、着信というのはなんとなく新鮮な感じだ。ポケットのなかでしつこく振動し続けているケータイを引っぱり出す。誰だろ?
目を疑った。だって、ディスプレイにこうこうと表示されていたのは『松田祥太郎』の5文字だった。松田祥太郎? 松田祥太郎って?
「――もしもしっ」
自分でもびっくりするくらいのデカイ声が出る。
「……よう」
いつものハスキーボイスがもっと低い音で鼓膜を揺らした。着信の相手は本当にしょうちゃんだった。
なんて、言えばいいんだろう? どんなトーンで話せばいいんだろう?
さっきの勢いが嘘のように、わたしは駅前の階段のまんなかでケータイを耳に押し当てたまま黙りこくっていた。
「負けたわ」
淡々と、しかしきっぱり、彼は言った。
ウンと答える。しょうちゃんもウンと答える。
「速報をね、見てたよ」
「そっか」
「応援してた」
「おう、ありがとな」
「最終回の1点、すごいと思った」
「けど、1点しかとれなかった」
無機質な通信機器の隙間を、あまりに無慈悲な沈黙が流れていく。