100点満点の2枚の再試が返ってきたのは、その日の数Ⅰの授業終わり、4時間目の最後だった。


「うっそぉ、やったぁ!」


うれしくて、受け取るなり思わずぴょんぴょん跳ねると、クラスのあちこちから笑いが起こった。川野ぉ、よかったなぁ、って。クラスメートはみんな、わたしがさっぱり数学がダメなことを知っている。


「最初からこれくらいがんばってよね」


数学のハヤミーが、細い身体をナヨナヨ動かしながら言った。


「ごめん! でもさあ、すごくない? ふたつとも100点だよ!」

「まあ、すごいけどサ……」

「センセー7組の光村ってわかる? あいつに教わったんだ!」


なぜかわたしが誇らしい気持ちになった。ハヤミーは7組に数Aを教えに行っているから、きっとみっちゃんのことも知っているはずだ。

ああ、光村くん。と、独特の鼻にかかった声がこぼす。やっぱり知っていた。それにみっちゃんはケタ違いに頭がいいから印象にも残っているんだと思う。


「みっちゃんの教え方って本当にわかりやすくてさ」


世間話みたいに言ったつもりだったのに、ハヤミーはちょっと傷ついたみたいな顔をした。

フレームなしの眼鏡の奥で、独特の糸目が悲しげに揺れたのを見た瞬間、すぐにシマッタって思った。これじゃまるでハヤミーの教え方がダメってことみたい。


「センセーの教え方、かわいくて好きだよ」


教え方がかわいいってなんだよ? とっさのフォローができない自分にうんざりする。でもかわいいのは本当なんだ。ハヤミーは新卒の先生にしてはがんばってると思うし、みんなからもすっごく愛されている。

ただこんなことを万年赤点のバカな生徒に言われるのはシャクだろうから、言わないでおいた。

そしてわたしは逃げるように教室を出た。うしろで、いつもいっしょにお昼を食べているミキとナミの声が聞こえたけど、あとでって答えといた。

一刻も早く7組に行かないと。みっちゃんにこの100点満点を見せるんだ。