花純ちゃんは裁判官のようにわたしを見つめていた。真偽を見極めている目。逃げだしたくなったけど、ここで逸らしたらダメだって、なんとなく思った。

わたしの瞳を覗きこんでいた小さな顔がやがて息を吐いて笑った。


「奈歩ちゃんってけっこう不器用だよね」


なんだって? そんなことははじめて言われたよ。


「光村くんはさ、きっと奈歩ちゃんのそういう不器用さを放っておけないんだね。光村くんの言う『奈歩はバカ』の真意がいまわかったよ」

「花純ちゃんってけっこうグサグサ言うね……」

「あれ、知らなかった?」


知らなかったとも。どちらかといえば世間知らずの天然系お嬢さんだと思っていたもの。


「ねえ、じゃあさ、奈歩ちゃんは好きな人いる?」


また唐突な質問だよ。

瞬間的にあの太陽のような笑顔が浮かんで、急に恥ずかしくなった。好きだな、うん、好きだよ、いま遠いグラウンドの土の上で闘っている男の子のことが……。

でも言わなかった。いるともいないとも答えず、今度はわたしが質問してみることにした。


「わたしのことはもういいよ。花純ちゃんは? うまくいってるの? 青田くんと」


サッカー部の青田くん。目のぱっちりとした、どこか幼い印象のあの青年と花純ちゃんがいまも続いていることは、ちゃんと知っている。いっしょにいるところを何度か見かけたこともあるけど、とってもかわいいカップルだよ。


「ああ、うん」


いつもくしゃっとするのが、今回はなぜか不自然にゆがむように笑った。

ありゃ? もしかしてマズイことを聞いてしまったのかも。


「どうしたの?」

「ううん、ちょっと……」


花純ちゃんはなにかを言いかけたけど、そこで文化祭の実行委員に呼ばれてしまったため続きを聞くことはかなわなかった。

どうしたんだろう? もしかして、うまくいってないのかな、青田くんと。

なんでもなく笑っていても、みんなけっこういろいろあるのかもしれない。