わたしは曖昧に笑った。
「みっちゃん、言ってるだけだよ。みっちゃんとわたしのこういうのはあんまり真に受けないでよ」
そしてやんわりと否定していた。たぶん、無意識のうちだった。
「奈歩ちゃんも『言ってるだけ』?」
なんか、刺さるなあ。尋問されているようだよ。とても悪いことをしている気になってしまう。軽々しくみっちゃんを大好きと言っていること。結婚しようとか、くだらない、幼い約束をしていること。もっとささいな、いっしょに登校したり下校したり、たまにメールのやりとりをしていることにさえ、変な罪悪感を覚えてしまう。
こういう感覚は久しぶりだと思った。
1年生の終わりから2年生のなかごろまでは、みっちゃんとの関係をこんなふうにいろんな人につっこまれていたっけね。そのときは非難されているというより気味悪がられてるって感じだったけど。ほんとにべったりだね、と、水樹くんに何度もからかわれたりもした。
でも最近じゃそういうのもほとんどなくなって。みっちゃんとわたしはこういうものだって、こういうカタチなんだって、みんな理解してくれたんだと思っていた。わたしたちの関係うんぬんなどには興味をなくしたんだろうとも思っていた。
だから、こんなのは久しぶりすぎて、ちょっと対処に困る。
「言ってるだけだよ」
わたしはきっぱり答えた。みっちゃんとの関係をこんなふうに大まじめに答えるのははじめてかもしれない。
「みっちゃんはねえ、優しいから、優しすぎるから、ダメなんだよね」
思い返す。バカなわたしの勉強の面倒を見てくれるみっちゃんを。血だらけの両膝を慣れない手つきで手当てしてくれたみっちゃんを。おれの前で泣けばいいと言ってくれたみっちゃんを。どうにも寄りかかってしまうわたしを、いつもなんでもないように支えてくれているみっちゃんを。
みっちゃんはいつだって優しすぎるほどに優しくて、損をしているね。
「みっちゃんはわたしみたいなのに振りまわされていい男の子じゃない」
たまに、ふと思うよ。わたしはみっちゃんの人生を食いつぶしてはいないかなって。みっちゃんの大切な高校3年間を、もしかしたらわたしは奪ってしまっているのかなって。
思うたびに情けなくて、どうにもこわくて、すぐに蓋をする。
「でもね、わたしがみっちゃんを大好きって思う気持ちは、ほんとだよ」
言い訳のように付け足した。
でも言い訳なんかじゃなかった。
みっちゃんが大好き――ただ言ってるだけじゃない、本当の気持ちだよ。弱いわたしのまんなかにある、それはとても強い部分だ。