◇◇
毎年9月の頭に開催される文化祭の練習を生徒たちは夏休み返上で行う。受験生なので、補修やら塾やらで、今年はみんなが毎日欠かさず参加しているわけではないみたいだった。強制でないから仕方がない。
きょうもまばらに集まったクラスメートたちを横目に、わたしは教室の端っこでケータイの液晶とにらめっこしていた。
「奈歩ちゃん、さっきからすごいコワイ顔してるよ」
教室のうしろのほうへ追いやられた机と椅子のあいだに隠れるようにしてしゃがみこんでいるところに、晴れ晴れとした声が降ってきた。
声だけでもう笑っているのがわかる。すぐに花純ちゃんの笑顔が浮かんでくる。
「そんなコワイ顔してた?」
「いや、うーん。まあ、真剣な顔、かな?」
言いながら、冗談っぽく笑われた。花純ちゃんとはくされ縁だけど、ふんわりとしたカワイイ子だとばかり思っていたから、こういういじわるな表情を見せることは意外だった。
人間、けっこう知らない顔を持っているものだね。わたしも持っているのかもしれない。しょうちゃんも、みっちゃんも、羽月だって、それを持っているのかもしれない。
「ねえ、なに見てるの?」
ぎゅうぎゅうづめの机を動かし、花純ちゃんがわたしの隣に座った。
「あー、高校野球のね、速報見てるの」
なんとなく恥ずかしいような気持ちになって、変な言い方になってしまった。
「高校野球……甲子園?」
「ううん、甲子園はまだだよ。大阪のね、地区大会」
「大阪?」
花純ちゃんの純粋すぎる瞳がわたしを映している。ぜんぜんその必要はないのに、なんだかごまかさなくてはいけないような気がして、とっさに目を逸らした。
毎年9月の頭に開催される文化祭の練習を生徒たちは夏休み返上で行う。受験生なので、補修やら塾やらで、今年はみんなが毎日欠かさず参加しているわけではないみたいだった。強制でないから仕方がない。
きょうもまばらに集まったクラスメートたちを横目に、わたしは教室の端っこでケータイの液晶とにらめっこしていた。
「奈歩ちゃん、さっきからすごいコワイ顔してるよ」
教室のうしろのほうへ追いやられた机と椅子のあいだに隠れるようにしてしゃがみこんでいるところに、晴れ晴れとした声が降ってきた。
声だけでもう笑っているのがわかる。すぐに花純ちゃんの笑顔が浮かんでくる。
「そんなコワイ顔してた?」
「いや、うーん。まあ、真剣な顔、かな?」
言いながら、冗談っぽく笑われた。花純ちゃんとはくされ縁だけど、ふんわりとしたカワイイ子だとばかり思っていたから、こういういじわるな表情を見せることは意外だった。
人間、けっこう知らない顔を持っているものだね。わたしも持っているのかもしれない。しょうちゃんも、みっちゃんも、羽月だって、それを持っているのかもしれない。
「ねえ、なに見てるの?」
ぎゅうぎゅうづめの机を動かし、花純ちゃんがわたしの隣に座った。
「あー、高校野球のね、速報見てるの」
なんとなく恥ずかしいような気持ちになって、変な言い方になってしまった。
「高校野球……甲子園?」
「ううん、甲子園はまだだよ。大阪のね、地区大会」
「大阪?」
花純ちゃんの純粋すぎる瞳がわたしを映している。ぜんぜんその必要はないのに、なんだかごまかさなくてはいけないような気がして、とっさに目を逸らした。