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順調に勝ち進んでいた。ウチの学校も、しょうちゃんの学校も。

ウチの試合は欠かさず応援に行った。最後の夏まで立派にマネージャーをまっとうする羽月はこれまでのどの瞬間よりもかっこよかった。ほんとに、素直にそう思った。

5年前に出会った山田羽月が嘘のよう。あのころ羽月はどうしようもない人見知りで、自分に自信のない、引っ込み思案な女の子だったね。

おさげと赤ブチ眼鏡の似合う、なんとも不思議な雰囲気をまとった子だった。地味なのに妙にオーラのある、いままでに出会ったことのないような人間だった。そういう羽月になんとなく興味を持ち、声をかけたのが中1の春。

なぜかわたしはめちゃめちゃ懐かれたんだ。いつしかほかの友達にヤキモチ妬かれたりするほど好かれて、独占されて。ヨシダと付き合ってたときなんかはほんとに大変だった。

なんでこんなにも好かれているのかいまだによくわからない。でも嫌じゃなかった。たぶん、妹のように思っていた。いつでもわたしのうしろをチョロチョロとついてくる羽月のことが、なんだかんだわたしもすごく大切だったんだ。いまも、大切だ。

そんな羽月がまさか野球部のマネージャーをやるようになるなんてなあ。ずっと甘えんぼうだと思っていた羽月がいつの間にかぐんと成長していて驚く。

野球部と羽月を見ていて思うよ。ああ、わたしの知らない青春を、羽月は送っているんだなって。ちゃんと楽しくやっているんだなって。わたしの親友はここでこんなにも輝いているんだって。

だから、最後の試合は羽月のせいで泣いた。せいでって言うと少し語弊があるね。

羽月が理由で。羽月を想って。

みっちゃんがぎょっとしていた。わたしが汗まみれで号泣するなんて思ってもいなかったんだろう。わたしもこんな事態は想定していなかったよ。


「……そっか。山田さんも、がんばってたんだなあ」


ひとりごとみたいにみっちゃんが言った。ワァワァと湧いている一塁側スタンドのまんなかで、わたしは泣きながらうなずいた。お疲れさまでした、とうわごとのように言いながら。

県大会ベスト16。公立の進学校のわりにはまずまずの結果じゃない? みんなががんばったからだ。

いつもウルセェだけの同級生たちがグラウンドで深々と頭を下げている。ワタッチが泣き崩れている。キョウヘイがそれを支える。ふだんポーカーフェイスのナオちゃんの頬にも涙が光っていた。羽月は最後まで顔を上げなかった。


「羽月、みんな、お疲れさまあっ」


聞こえているのかどうかもわからないけど、精いっぱい声を出した。

最後の夏が、終わっていく。