「マツダのハナシー」
わたしもなんでもなく答えながら、今度は一本だけじゃなく、ポテトをごそっとわしづかみにしてやった。
「持っていきすぎだろ」
「ナゲットひとつとポテト一本じゃ割に合わない」
まあ、いまのでわたしの取り分が多くなった気がしないでもないけど。みっちゃんはあきれたように笑った。
「行くのかよ? 応援。大阪まで」
突然、口と手を止めてみっちゃんが聞く。つられてわたしもポテトを口に運ぶのをやめる。
正直、大阪にはめちゃめちゃ行きたいと思ってるよ。応援しに行きたいというよりは、“高校球児の松田祥太郎”が野球してるところを見に行きたいって気持ち。
でもきっと物理的に行けないし、彼女でもなんでもないただの女友達がはりきって応援に行ったって、なに出しゃばってんだって思われそうだからね。
「……ねえ。もし、しょうちゃんが甲子園に行ったらさ」
質問には答えないで言った。みっちゃんがキョトンとする。
「みっちゃん、いっしょに西宮まで応援に行こうね」
いたってまじめに言ったつもりだったけど、どこか冗談みたいな響きになってしまったかも。
壊れたブリキのようにみっちゃんは少し時間を置いてから笑いだした。
「ああ、そうだな。そしたら応援行ってやらないと」
「マジで甲子園で大活躍しちゃったらどうする? しょうちゃんが有名人になっちゃうよ!」
「そういう妄想話は松田としろって」
ちぇー、つれないの。
「……でもほんと、マジで甲子園行ったらかっこいいよ、松田」
ひとりごとのようにしみじみと言ったみっちゃんは、そうだねってわたしが笑っても、なぜか笑い返してくれなかった。