「名古屋にしとけよ」
みっちゃんが軽く言った。本気なのか冗談なのかわからなくて戸惑う。
「ええ? そんなこと言っちゃって、わたしの面倒みきれるの?」
「おれが面倒みんの?」
「だってみっちゃんが『名古屋にしろ』って言ったんだよ」
まいったなあ、と、ぜんぜんまいってない感じでみっちゃんは言った。
「あ。じゃあさ、ふたりとも名古屋に決まったらルームシェアしようね」
「なにそれ。ぶっ飛びすぎ」
「ダメなの?」
「いいけど」
いいのか。いいのかあ。
ふたつ返事で異性とのルームシェアを承諾しちゃうみっちゃんって、やっぱりどこか変な男の子だよ。
「受験だねえ」
わたしはひとりごとのように言った。
「いつまでこうしていられるのかな」
今度は隣に問いかけたつもりで言った。
「さあ。卒業までじゃない?」
すぐに答えは返ってきたけど、想像していたよりもずっと現実的なそれに、わたしはどうにもうろたえてしまった。
高校を卒業すれば取り巻く環境もそれぞれ変わるだろうし、きっといまより忙しくなって、こんなふうに当たり前にいっしょにはいられなくなる。
卒業まで。うすうすわかっていた。ちゃんと、わかっている。
でも、さみしいね。
「さみしい」
声に出して言うと、心がしんしんと冷えこんでいく感じがした。みっちゃんがふさいでくれた胸の穴をすきま風が吹き抜けていく気がした。