ひととおりの話は終わったのだろうけども、なんとなくお互いに腰を上げなかった。ミルクティーはずいぶん前になくなっていた。手に持っている空き缶を、少し遠い場所にあるゴミ箱に向かって投げようかと思ったけど、コントロールにはほとほと自信がないのでやめておいた。外してしまった缶を拾いに行くためにみっちゃんの隣を離れるのが嫌だった。

しょうもない話ばかりをしたよ。通常運転。いつもと変わらないわたしたち。


「そういや最新巻でたよ」


思い出したようにみっちゃんが言う。いっしょに読んでいる野球漫画のことだってすぐにわかった。


「うそ、貸してよ」

「すげー展開だった、まさかあいつがなぁ」

「ちょっと! ネタバレやめて!」

「そういや、奈歩の好きなあいつも」

「みっちゃん!」


みっちゃんがカラカラ笑う。あした持ってくるよ、と軽く言う。

そしてわたしは思う――いつまでみっちゃんと漫画の貸し借りをしていられるんだろう?


「……みっちゃんは、どこの大学に行くつもりなの?」


その質問にはどうにも勇気がいった。おかげでうわずったような声になってしまった。


「んー。おれは名古屋かな。工業系」

「名古屋かぁ……」


名古屋。家から通える距離だ。つまり地元から離れるつもりはないということだね。


「ふうん……。じゃ、わたしも名古屋の大学で探そうかなあ」

「ほかのところも見てんの?」

「まあ、東京とか、大阪とか……」

「思いっきり都会志向じゃん」


そういうわけではないんだけど。いちばんやりたいことができるのが都市部に集中しているってだけで、できることならわたしも実家から出たくない。

この街から――みっちゃんの傍から、遠ざかりたくない。