「ミッツは、やだな」


ふいに、羽月が言った。視線は窓の外へ向けたまま。


「奈歩のこと持ってっちゃう気がする。すごいやだ。ミッツは、生理的に無理」


なんか1年前にも同じようなことを聞いた気がする。『生理的に無理』って。あのときはわたしが付き合っていた男に対してだったっけ?

なつかしい。恥ずかしい。この人意外は絶対に考えらんない!とか、15歳のガキが大まじめに言っていた。彼と別れたのは高校に入ってすぐ、たった半年とちょっと前のことだけど、思い出してはぞっとする。

でもとにかく当時、わたしたちはそれくらい真剣に付き合っていて、思い出したくはないけどけっこうべったりで。そんなわけで羽月はその男のことをものすごく嫌いだったのだ。彼にとってはちゃんちゃら理不尽な話だ。羽月は彼に面と向かってシネと言い放ったこともあるらしい。


「奈歩ってさぁ、いつもミッツのことすごい特別って感じで話すよね」

「そうかな」

「そうだよ! なんか、ヨシダのときとはまたぜんぜん違うんだけど……わかるよ」


ヨシダってのは、わたしが中3のころに付き合っていたその男だ。


「奈歩はあたしのなのに」


よく言うよ。そういう羽月にだって彼氏がいるじゃない。

羽月の彼氏は、ちょっと離れた工業高校の野球部員、それもエースの男。一度写真を見せてもらったけど、ゴツくてコワモテで、わたしはぜんぜん好きなタイプじゃなかった。


羽月は、わたしのことをとても好きだ。なぜかはわからないけど、中1のころに出会ってからいままでずっとなつかれている。まんまとこうして同じ高校にも進学してしまった。

でも、わたしも羽月のことぜんぜん嫌じゃないから困るのだ。やっぱり自分を好いてくれていると悪い気がしないものなのかもしれない――その愛情が多少重たすぎているとしても。