「みっちゃん」
「なに?」
「ありがとう」
いいよって、薄っぺらいくちびるがとぼけたように言う。
「みっちゃん。みっちゃん」
何度も名前を呼んだ。何度も答えてくれるのがうれしくて。
大好きな名前を呼んでいるうちに胸の奥のほうが熱くなっていく。ああ、ここはぽっかりあいている部分だよ。おじいちゃんと伯父さんが大きな穴をあけたところ。
この場所にしまいこめるものなんかもうないって思っていた。この大切なくぼみにフィットする誰かなんかいないって、ずっとあきらめていた。
「みっちゃん、大好きだよ」
もう聞き飽きたって顔。でもまんざらでもないって感じのかわいい表情だから、何回だって言いたくなる。
「ねえ、みっちゃんは?」
そして、聞きたくなる。
「言わない」
「なんでさ?」
「『好きじゃない』って言ったら奈歩が傷つくから」
なんだと? いじわるな流し目にパンチをくれてやる。
「いいよう。みっちゃんがわたしを大好きなのはわかってるもんね」
「おめでたい脳ミソでうらやましいよ」
軽口をたたきあえるくらいには心が復活していた。みっちゃんのおかげだ。涙が乾きかけてパリパリの顔を、制服の袖口でぐいっと拭った。