どこ行こうかって聞いたくせに、みっちゃんはまるではじめから決めていたようにまっすぐ公園へ向かった。
みっちゃんチの最寄り駅近くの、あの公園。『憩いの森』というジジくさい名称が一応はあるらしい。ここで2度、わたしはみっともなく泣き、そのどちらともをみっちゃんが助けてくれたね。
優しい月明かりの下、ふたりならんでベンチに座った。みっちゃんが自販機であたたかいミルクティーを買ってくれた。
「塾はよかったの? 授業だったんでしょう?」
いきなりそんなことを聞いてしまうくらいにはひねくれきったわたしに、みっちゃんは息を吐いて笑う。
「まあ、数学のほうが好きだけど、奈歩のほうが大事だから」
こんなにもさらさらとした言葉を発する人、世界中のどこを探したってほかには見つからないんじゃないかと思うよ。
細いスチール缶のてっぺんにくっついたプルタブを引っ張る。同時に甘い香りが鼻をかすめて、徐々に気持ちが落ち着いていく。
「奈歩って絶対的にホットだよな。真夏でも」
信じられないってふうにみっちゃんが言った。
「べつにいいじゃん。飲む?」
「飲む」
アツイアツイって文句を言うくらいなら飲まなきゃいいのに。そう言うと、おれが買ったミルクティーだろって、ごもっともな返事が飛んできた。
「で?」
缶をこちらに手渡しながら、みっちゃんが短く声を出す。
それ以上はなんにも言わないで、退屈そうに赤いスニーカーをぷらぷら動かすみっちゃんの足元を、なんとなくじっと見つめた。