きょうをもってわたしたちの友情はほんとにぶっ壊れたんだと思う。そして、その最後の一手をかけてしまったのはきっとわたしだった。

ミキが痛み分けだと言ってくれた。ナミが奈歩は悪くないと言ってくれた。

でも、そんなふうに簡単に割りきれるほど、わたしは強くできてはいない。


ぐちぐちとイヤな音を立てる心をしまいこんだまま、憎らしいほどに美しい星空の下を歩いていた。3人でたどったこともある、学校から駅までの道。ミキは放課後は部活をしているし、ナミとは方向が違うから、いっしょに歩いたことなんか数えるほどしかなかったね。

思い出はいつもきれいだなんてほんとによく言ったものだと思う。

楽しかったことばかりだよ。嫌なことなんてぜんぜん覚えてない。いや、きっと嫌なことなんかなかったのだ。ひとつもなかった。ちょっとした喧嘩とか、わだかまりも含めて、わたしたちは全部をちゃんと楽しんでいたんだと思う。


「奈歩」


ふいに名前を呼ばれた。下校ラッシュを外した人気(ひとけ)のない道でのことだったので、わりと本気でびびった。

自転車の車輪がまわっているようなカラカラという音につられて顔を上げる。うすぼんやりとした景色のなかに、なぜか、みっちゃんがいた。


「……なんだ。泣いてない」


本物なのかもわからない目の前のみっちゃんはひとりごとのように言った。


「乗る?」


思わずうなずく。黒い自転車の荷台にわたしを乗っけるのと同時に、みっちゃんの長いがペダルを踏みこんだ。


「目撃されてたぞ」


広い背中の向こう側から風に乗って涼しい声が運ばれてくる。


「え?」

「泣いてるとこ、水樹に」


どうやら部活帰りの水樹くんがわたしを見かけ、塾にいたみっちゃんに連絡したらしかった。まいったな。いちばん見られたくない人にいちばん見られたくないところを目撃されてしまった。今度顔を合わせたときになにか言われそうだ。

ナミと別れたあと、ちょっとのあいだ、下駄箱でシクシクしてたのが悪かったね。絶対に誰もいないって思っていたよ。

ああ、そうか、嫌だなあ、情けない……。


「すげー心配してたよ、水樹」

「え……」

「おれも」


どこ行こうか? って、みっちゃんは当たり前のように言った。その背中にしがみついてこっそり泣いてしまったこと、きっとこの優しいキタキツネにはバレバレなんだろうな。