「『誰が悪いか』は、決めたくない」
懇願するようにミキが言った。
「……ほんとはね、ダイキとうまくいってなかった。最後のほうは喧嘩ばっかりでさ。別れたいってずっと言われてた。それをウチが嫌がってただけなの。ほかにもいろんなこと……ワガママ言って困らせて、うんざりされてて。むしろたぶんもう嫌われてたと思う。だからさ、今回のことは、ウチだって悪かったんだ」
この高校に入って。たまたまふたりと同じクラスになって。仲良くなって、バカなことしゃべって、笑って、楽しくて。よかったな。出会えてよかったな。ラーメンがおいしかった。嫌いな体育がいつも楽しかった。数学の補修が苦じゃなかった。
それは全部、ミキとナミといっしょだからだった。
「向こうに気持ちがないのに無理やり縛ってたウチも悪い。友達の彼氏に手を出したナミも悪い。それを知りながら黙ってた奈歩だって悪い。だから、もう、痛み分けで終わりにしよう」
痛み分けにできたって、修復はできないのだ。
そう実感したらやっぱり涙が止まらない。後悔が胸いっぱいに広がっていく。いっぱいすぎて取り除けそうもないよ。息が苦しい。
ミキはなにも言わないで教室を出ていった。なにか気の利いた言葉をかけたかったけど、最後までなんにも出てこなかった。情けなくてそろそろ本当に死んでしまいそうだ。
「……奈歩、ごめんね」
ふたりきりになった教室で、ふいに、ナミが弱々しく静寂を切り裂いた。
「なんにも知らなくて、ウチ……」
「違うよ。謝らなきゃいけないのはずっとわたしのほうだったんだ。全部知ってたくせにナミのこと守れなかった。ミキのことだって結果的にすごく傷つけて……」
後悔ならいくらでもある。何度考えなおしたって、わたしにできたことはきっとたくさんあったはずだって思ってしまう。
「ううん」
ううん、と、ナミは幾度もくり返した。
「『言わなかった』んじゃなくて、『言えなかった』んでしょう?」
わたしより少し背の高いナミに、気付けばすっぽり抱きしめられていた。華奢な肩は震えていた。
「奈歩は、優しいところがあるから」
ふたりでいっしょに泣いた。いつまでも、いつまでも泣いていた。なにかを取り戻すかのように。もう取り戻せないものを惜しむかのように。
いつしかオレンジ色の夕焼けは消え去り、3年2組の教室は、別の惑星から地球に戻ってきていた。