「は? なに……言ってんの?」
ミキがゆるゆるとかんしゃくを起こし始めた。
相変わらずきれいなつるつるのボブヘアを振り乱し、彼女はわたしの肩をおもいきり押した。何度も何度も。バスケ部とは思えないくらい小さな手のひらは、こんなに力強いのに、どこか弱々しくもあった。
「ねえ奈歩、なに言ってんの!? わかるように説明してくんない……っ」
いつの間にかミキはぼろぼろ泣いていた。わたしは泣けなかった。ヒステリックに声を荒らげる彼女に対し、なにひとつロクな言葉が思い浮かばなかった。
カタチのいい、見事なシンメトリーの両目から、透明な涙がとめどなく落ちていく。
「グルだったってこと!? ふたりしてウチのこと騙してたってこと!?」
「ちがうっ」
絶叫したのはわたしじゃない。ナミがあいだに入り、わたしたちを力いっぱい引きはがしたのだった。
「違う……。奈歩に、言ってない。畑山くんとのこと、誰にも言ってない。言えるわけない……」
どうして、とナミが続ける。彼女の表情もまた、戸惑いを隠しきれていなかった。
「見た」
強力な魔法から解き放たれたように、わたしのくちびるは動きだした。
「修学旅行の夜、畑山くんとナミが会ってるところ、たまたま目撃して。ヤバイって思った。……だから言えなかった。すごい、こわくて。ああ、なかったことにすればいいかって。逃げた」
喉がカラカラに渇いている。西日がまぶしい。強すぎるオレンジが目にしみて、痛い。
「ぜんぜん、ふたりのことなんか、考えてなかった」
淡々と言った。
「ごめん」
その台詞さえ淡々と言えるほどに、なぜか、どこか、強烈に冷静だった。