話したいことがある、とそれぞれにメールを送った。同じクラスなので、ナミには直接言いたかったけど、声をかける勇気がどうにも出なかった。

ナミも呼んでいることをミキには伝えなかった。言ったら来てくれないと思ったから。案の定、これでもかってくらいの嫌な顔をされた。やってくれたなって顔。

放課後、3年2組の教室。わたしとナミのクラス。

オレンジ色のやわい光に包まれたここは、わたしたちの友情がぶっ壊れた日に見た景色とよく似ている。


「……話って?」


いちばんに口を開いたのは仏頂面のままのミキだった。

言葉が見つからない。喉が震えてくれない。ふたりの視線を痛いくらいに感じていたけど、それに答えることができない。

うつむいたままこぶしを握った。手のひらがじんわりと汗ばんでいることにはじめて気付いた。


「ふたりに、謝りたいことが、あって」


しゃべるのってこんなに難しかった? 一音ずつがいちいち声帯に引っかかる感じ。気持ち悪い。しゃべってるうちに食べたもの全部出ちゃいそうだ。


「なに?」

と、ミキがかったるそうに言った。


「知ってた」


もう勢いだけ。決死の覚悟で、重たい空気のなかへ飛びこむつもりで、わたしは言った。


「ナミと畑山くんが浮気してたこと、知ってた」


ドカンと、大きすぎる沈黙が落ちる。遠いグラウンドで響いているはずの運動部の声があまりにも近くで聞こえる。