わたしがなにも言えないでいるうちに、キョウヘイは仲間のほうへ戻っていってしまった。弁当に向きなおったのと同時に、目の前にいる華奢な女の子とばちっと目が合う。
お互い変なほほ笑みを浮かべたあとで、思いきって口を開いたのはわたしのほうだった。
「やっぱり、知ってるよね? ミキとナミとのこと」
花純ちゃんは一瞬ものすごく驚いた顔をして、それから控えめにうなずいた。
「そうだよね……」
「あ、でもわたしは去年、奈歩ちゃんたちとは違うクラスだったし……くわしくはぜんぜん知らないんだけど」
教室にはナミもいる。彼女たちのグループのほうまで届かないよう、自然と声が小さくなる。
「結局、ナミちゃんがハブられた……ん、だよね?」
そう。ハブられたんだ。ミキとわたしによってハブられたナミは、去年、クラスで孤立した。
ヒュッと息が苦しくなる。ポテトサラダがどれだけウマかろうと弁当なんか食べる気が起きないよ。
「でも実質ミキちゃんが実行犯だって聞いたよ。奈歩ちゃんは仕方なくだったって」
頭のなかでなにかがはじける音がした。とてつもなくデカイ音。それなのにほんのかすかな音。
うやむやにして逃げてたら、ダメなんだよ――また、キョウヘイのあの台詞が聞こえる。何度も。責めたてるように。勇気を分け与えるように。
「ぜんぜん……そんなことなかったんだよ」
わたしは言った。無意識のうちに口が勝手に動いていた。
「ハブったとか、ハブられたとか。そういう簡単なことじゃなかったんだ、あれは」
あのとき、ナミはミキに謝ったね。自分のしたことをきちんと認め、真摯に。誠実に。
そんなナミをミキはおもいきり罵倒した。つまり言いたいこと全部言ったってことだ。
じゃあ、わたしは?
わたしは、ふたりに言わなきゃいけないこと、ちゃんと言ったんだっけ?
ぞっとする。自分のずるさ、浅ましさに。
こんなさもしい悪魔にはなりたくなかったのに、と思った。同時に、なぜか伯父さんからの留守番電話を思い出した。
ぽっかりあいているはずの心のまんなかがぎゅっと痛んだ。