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めずらしくわたしと同じ7時半の電車に乗っている羽月(はづき)が、大きすぎるふたつの目をぱちぱちさせながらこっちを向いた。

顔のほとんどが瞳だってくらいの印象を受けるほど、羽月の目はとても大きい。ふたえもつくりものみたいにパッチリしているし、まつ毛も太く長く、くるんと天を向いている。女の子なら一度は憧れるような目を羽月は持っている。


「しょうちゃん、かわいそう」


美少女と呼ぶに不足はない顔面とは裏腹に、羽月はブスッとした声を出した。どうやらわたしがみっちゃんとの勉強会の話をしたのがマズかったらしい。


「奈歩とミッツが仲良くしてるの知らないなんて、しょうちゃんかわいそう」


まるでふたりの親友みたいな口ぶりで羽月は言った。しょうちゃんともみっちゃんとも面識ゼロのくせに。

羽月には、わたしのまわりにいる男のことを必要以上に嗅ぎまわりたがる癖がある。昔っから。好きだとか好きじゃないとか、彼氏だとか彼氏じゃないとかは関係ないみたいだ。

しょうちゃんとみっちゃんもその例外ではなく、いろいろと聞かれまくっている。根掘り葉掘り、どうやって知り合ったんだとか、写真見せろとか、そりゃもう死ぬほどうっとうしく。羽月は、みっちゃんのこと、わざわざ7組の教室まで見に行ったことがあるらしい。


羽月はしょうちゃんを気に入っている。高校球児だから。ほんとにそれだけ。たったそれだけが理由だなんて笑っちゃうけど、羽月は野球部のマネージャーをしているし、まあしょうがないって気もする。

それに、羽月がどちらを気に入っていても、わたしには関係のないことだ。


「べつに、いちいちしょうちゃんにそんなこと報告する必要ないし……」

「しょうちゃんは奈歩のことを好きなのに?」

「それは羽月の勝手な妄想ね」


そうかなぁ、とこぼして、羽月は窓の外に視線を移した。つられてわたしも同じほうを向く。

年末年始にたくさん降っていたのが嘘のように、あの白い雪は跡形もなくなり、ただ緑と茶色の景色が電車の窓をすり抜けていくだけだ。