わたしはなにも言えずに、鳥肌の両腕をさすりながら、ただ羽月の瞳を見ていた。羽月の瞳を通して、星空を見ていた。

わたしは星じゃないよ。人間だよ。本当に、あきれるくらい、ちっぽけな人間なんだよ。だっていま羽月のその両目に、わたしだけは映っていないじゃない。


「いつも、ありがとお」


そりゃあもうすごい勢いで反論してやりたかった。

ふざけるな、勝手に人のこときれいなものに例えないでくれる、勝手に理想を押しつけないでくれるって。わたしはそんなきれいな人間じゃないんだからって。


でも言えなかったよ。

羽月があまりにも幸せそうにわたしを見たから。切なそうに笑ったから。

美しすぎる星空を映した、美しすぎる瞳で、今度はわたしを映したから。


「奈歩が大好き」

「……それ。もう、聞き飽きたって。やめてよ」

「奈歩は何度も言葉にしないと信用してくれないから」

「嫌ってくらい信用してるよ」


羽月の『大好き』に関しては、もう特例。


「それに、不安がる」


さっきまで妹のように甘えた表情を浮かべていた顔が、今度はお姉さんっぽくほほ笑んでいた。羽月には兄貴と妹がいるから、生まれながらにどっちの表情も持っていて、妙に器用に使い分けるね。


「だから何回も言うの。奈歩が不安がらないように。大好きだよーって」


羽月は気付いているのかもしれない。いまわたしがどうにも悩んでいることに。

いや、きっとなんとなく知っていて、そのうえで言わないんだろう。ミキとナミのこと、わたしがなにも言わないから、あえて触れてこないでいるんだ。

本当に嫌になる。


「ばっかじゃない……」


嫌われたくないって、思うじゃん。

こんなにもわたしのことをよく理解してくれているのに、こんなダメなやつのことを星だとかなんだとか言っちゃう羽月にだけは。

失望させたくないって、思うじゃん。いつまでも、星でいたいって、思うじゃん。


「ねえ、寒いよ。そろそろ帰ろう」

「えー。きょうも奈歩はあたしに大好きって言ってくれないのかぁ」


だって羽月は、言わなくたってわたしをまるっと信用してくれるし、なんにも不安には思わないでしょう。