「なあ、おまえら、いいかげんにしろって……」
わたしや羽月と同じ中学出身のナオちゃんがイラついたように言う。ふだんクールでポーカーフェイス、冷静なプレーが売りのナオちゃんでさえ、今回ばかりはかなり困っているようだった。
「黙ってろ」
キョウヘイがいつもより3トーンは低い声で言った。
「こういうのはな、うやむやにして逃げてたら、ダメなんだよ」
ふだんチャラチャラしているキョウヘイの、あまりに真剣な横顔。
「どっちが悪いのかを決めるために喧嘩してるわけじゃねえ。言いたいことは言っとかねえと、しんどいだろ。おれも、ワタッチも、おまえらみんなも、しんどいだろ。……おれはこのメンバー全員で夏大出たいんだよ。こんなことでワタッチが部をやめるとか、困るんだよ。絶対、嫌なんだよ」
おれの勝手な事情で悪いと思ってる、と、キョウヘイは最後に素直に謝った。
羽月たちマネージャーは泣いていた。ナオちゃんはあきれたようにため息をついた。ほかの3年生たちはどうにかしてこの喧嘩を隠蔽する話し合いを始め、1・2年生たちはグラウンドへ戻っていった。
そんななか、わたしは、雷にうたれたようにその場から動けないでいた。
『――うやむやにして逃げてたら、ダメなんだよ』
キョウヘイの言葉がぐるぐると頭を駆けめぐる。まるで責められているみたいな気分だった。
だって、わたしはいま、全部をうやむやにして逃げようとしている。ミキから。ナミから。わたしたち3人の関係から。逃げようとしている。
「川野」
はっとする。顔を上げると、すぐ傍にナオちゃんがいて、ものすごく申し訳なさそうな顔をされた。
「悪いな。山田に連れてこられたんだろ。もう帰っていいから、こっちは、どうにかするから」
「うん……。ナオちゃんも大変だね」
「しょうがないな。キョウヘイの言ってることもまあ、わかるし。仲間なんだからなんとかしてやらないと」
やっぱり部活に入っておけばよかったって、また思った。
夏の大会がんばってね、と当たり障りのない言葉をかけた。ナオちゃんは笑って、応援きてくれよ、と言った。ワタッチも、キョウヘイも、ナオちゃんもほかのみんなも、誰ひとりとして欠員がなく、夏の大会に出られたらいいな。