17時に終わる予定だった二者面談は20分ほど押してしまい(しゃべりすぎだと大川先生に怒られた)、帰るころになると東の空は紺色に染まりかけていた。5月に入ったといえどまだそんなに陽が長いわけじゃない。みっちゃんには先に帰ってもらった。
ほとんど運動部しか残っていない放課後のこの雰囲気って、なんだか異様だな。悪い意味じゃなく。それぞれの部活の、それぞれの声や音が校舎に反射して、やかましく、美しく、響きあっている。
こんなにやかましいのに、こんなに静かだ。なんかおかしいな。あ、違うか、静かなのは、わたしがいるこっち側だけか……。
グラウンドで駆けまわっている様々なジャージ、体育館から聞こえてくるいろんな音、そのすべてをどこか遠い世界のことのように思う。
いいなあ。
部活、なにかやっておけばよかったかな。日差しと暑さと汗がめっきりダメなので、どうせ続かないんだろうけどさ。
でも、いいなあ。
野球部は、やっぱり甲子園を目指しているのかな。サッカー部や陸上部はインターハイを目指しているのかな。ウチは進学校だから、強豪と呼ばれる学校からしてみれば、部活なんて勉強の合間の息抜きだとか思われていたりするのかもしれない。
でもぜんぜんそんなことないんだなって、オレンジ色の光に包まれたグラウンドを見て、思った。
熱くなれるものがあるって、すごいことだよ。わたしみたいなのからしたらそれは奇跡だよ。いいなあ。
2年前いっしょにここへ入学した、ちんちくりんでテッカテカだった同級生たちが、いまは部長やキャプテンになっているんだよね。そして、もうみんな、引退を目前にしているんだ。
がんばってほしい。
無責任かな。でもそう思うよ。たとえばバスケ部がインターハイに出場したら、わたしはやっぱり、誇らしいよ。きっと張り切ってミキにお守りなんか作っちゃうと思うね。
いつの間にこんな愛校心が芽生えていたんだろう。
もうほとんど明かりの消えた校舎を見上げて、愛おしいような、さみしいような気持ちになった。あと1年もしないうちに、卒業なんだね、わたしたち。