でも、このさみしさはきっと距離だけの問題じゃないんだろう。
いま、同じ制服を着て、同じように授業を受けて、同じようなことをしゃべって笑っているわたしたちが、卒業したらまるっきり違う人生を歩んでいくということ。それぞれが自分の人生と向きあうということ。
それはほんとに孤独で、きつい闘いだと思うから。
受験は団体戦だと、先生たちは口をそろえて言うね。
団体戦――そんなわけがないよ。
みんなが違う人生を生きている。その事実がひっくり返らない限り、これはれっきとした個人戦だ。いや、個人戦というよりも、ひとりぼっちの闘いって感じかな。
わたしのかわりにわたしの人生を闘ってくれる人はいない。
わたしが誰かの人生をかわりに闘ってあげることはできない。
すうっと息を吸って、どうにもできないさみしさを放りだすように息を吐いた。
そうか、わたしはこれから、まるっきりひとりで、自分の人生を選んでいくのか――
不安だよ。すごくこわい。ぽつんと、暗闇のなか、ぎりぎりの綱渡りをしている気がして、途方もない気持ちになるよ。
掃除を終えて教室を出たところで、ナミと鉢合わせた。お互いにおかしな声が出た。ア、という、なんとも情けない音。
「……ごめん」
先に言葉らしい言葉を発したのはナミのほう。
でもその一言はどうにも気に入らなかった。ごめんって、なにが? そう聞きたいのに、目が合わない。
ナミがすっと身を引く。先に通ってと促されているように感じたので、素直に従った。振り返ると、すでに彼女は教室のなかへと消えてしまっていた。
ダメだなあ。うまくいかない。ちゃんとしゃべりたいのに、言葉が見つからない。ごめんって言いたいのは、言わなくちゃいけないのは、わたしのほうだよ。でも、それは自己満足なんじゃないかとも思う。ただ自分がすっきりしたいだけなんじゃないかって。
嫌なものを落とすように頭を振り、混雑している放課後の廊下を走った。6組まで。
みっちゃんはちゃんとそこにいてくれた。わたしを見つけるなり、いつもと同じようにのんびり名前を呼ばれたので、なんだかほっとした。