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志望大学を書かされるのははじめてじゃない。いちおう“進学校”なので、1年生のころからなにかにつけて書いてきた。いつもかなりてきとうに書いてた。判定を突きつけられるわけじゃなかったしね。

でも今回は違う。いや、今回からはたぶん、全部違う。

現実問題としての志望大学を書いて、模試を受けて、容赦ない判定をされて、勉強して、偏差値と志望大学のレベルを擦りあわせて……っていう途方もない作業を、くり返していかなければならない。つまりは自分の出来の悪さをリアルに思い知っていかなければならないということだ。

進路希望調査用紙をこんなにも恐ろしく思ったのは、正直はじめてのことだった。

ああ、ヤになる。進学校なんてやめとけばよかったって、最近はため息しかついてない気がするよ。


「奈歩ちゃん、進路希望どうした?」


3年になってはじめて同じクラスになった花純ちゃんが、不安になるほど細い身体に重たそうなモップを抱えてやってきた。


「どうもこうも、第5希望までなんか埋められるわけなくない?」

「あはは、たしかにね!」

「花純ちゃんはもう進路決めてるの?」


わたしも同じようにモップを動かしながら問う。掃除当番があると直帰できないから嫌なんだよなあ。きょうはみっちゃんも掃除だって言っていたからいいけど。


「わたしもまだまだ、ぜんぜん。なんとなく英語に興味があるかなあってくらい」

「そんなもんだよね。わたしもドイツ語に興味があってさ」


オーストリアに永住したいからさ。ってのは、べつに言わなくてもいいか。


「ドイツ語!? へえ、なんか意外!」


花純ちゃんが大げさに目を輝かせるので、わたしはなんだか恥ずかしい気持ちになる。


「じゃあ、お互い外国語大学かもしれないね」

「また同じ学校かな?」

「幼稚園からずっと? やばい!」


それはほんとにやばいね。腐れ縁もいいところだ。

同時に、はじめて頭に浮かんだ。羽月はどこの大学へ行くのかな? ミキは? ナミは? 遠い大阪にいる、しょうちゃんは?

考えだすと、ほんのり、じんわり、さみしいような気持ちになった。中学から高校へ進学したときとは重みが違うよ。次は全国規模の移動だもん。