デカくなった悪ガキは、慣れたようにエレベーターを呼び、小さな箱に乗りこむと、8階のボタンを押した。そこが最上階らしかった。

ぐんと身体が下に引っ張られる。ふいに沈黙が訪れる。あ、エレベーターって密室だなあと自覚したときにはもう、なんとなく距離のとり方がわからなくなっていた。こんなふうに完全なふたりっきりになるのってはじめてだ。

どきどきしている。古ぼけたエレベーターはガタガタと不安定に鳴いている。4、5、6、順にランプが光っていく。

やがて、チンと安っぽい音が密室に響きわたった。やっと8階に到着したらしい。途中で誰か乗ってきて、見つかったらどうしようかとひやひやしていたので、とりあえずよかった。

ガコガコとぎこちなくドアが開いていく。その向こうは、想像していたより何倍もまぶしくて、思わず目を細めた。


「奈歩?」


早く降りろよと急かされる。はっとして、同時に気管がおもいきり息を吸いこんだ。知らず知らずのうちに呼吸を止めてしまっていたみたいだ。たぶん、密室にふたりきりだったからだ。


びっくりした! 展望台――というにはお粗末だけど、そこには開けた大きな窓があった。

紺色のじゅうたんをスニーカーで踏む。おそるおそる窓のほうへ近づくと、周辺の街並みの景色がガラスの向こう側には広がっていた。

あ、駅が見える。ということはあれがしょうちゃんチだね。こんなに近いんだから、この場所がカッコウの遊び場になるのも仕方ないかあ。


「いいねえ、ここ」

「だろ」


しょうちゃんが満足そうにうなずいた。そして、景色にくぎづけになっているわたしの右側に歩いてくると、そのままどかりと座りこんだ。つられてわたしも座りこむ。

じゅうたん、ガシガシしてて、歴史を感じる。