どうしよう……と、情けない音が口からこぼれ落ちる。

すがるようにみっちゃんを見上げた。目が合うと、涼しい声は「どうしようもないやつだな」と困ったように言った。


「松田は昔っからあんな感じだよ」

「唯我独尊……」

「たしかに。よくそんな言葉知ってるな。奈歩はなぜか国語だけはできるんだよな」


なんだって、バカにしてるね! それに英語だってなかなかできるとも。

……なんて、いまはのんきに笑ってる場合じゃない。

相手がしょうちゃんじゃなかったらきっとのんきに笑っていたよ。いや、もしかしたら怒っていたかもしれない。急になんだよあいつ、空気乱しやがって、ってな調子で。

でも、いまのわたしはそうじゃない。恥ずかしいくらい完璧に、女子になっていた。嫌われていたらどうしよう、そんな気持ちがぼこぼことあふれて止まらない。情けない。


「……ああ、そういやおれも水樹に呼ばれてるんだった」


みっちゃんがいきなり言った。


「えっ?」

「数学でわかんないとこあるから教えてほしいんだと。20時までに塾に来いってさ、忘れてたけど」


忘れてやるなよ……と言いかけて、口をつぐむ。みっちゃんがあんまりにもわかりやすい嘘をついてるってことに、なんとなく気付いてしまったから。


「だから奈歩も早く帰れば?」

「みっちゃん……」

「松田の家の方向、わかるよな」


嘘がへたくそだね。でもわたしは、その優しい嘘を暴いたりするようなバカじゃない。


「うん」


たった一度、うなずいた。みっちゃんも同じようにうなずいてくれた。

目の前にいるキタキツネを追い越し、青い景色のなかを歩きだす。だんだん足が弾みだす。駆けだす。走りだす。


「奈歩っ。よいお年を!」


うしろから声がした。がばっと振り返ると、みっちゃんがひょろりと長い右腕を上げていた。


「……うん、みっちゃんもね!」


みっちゃん。今年も、最後まで、ほんとにありがとう。

……あ、しまったな。ニット帽かぶったまんまだ。年明けに会ったら返そう。