◇
空気ってやつはほんとに不思議だ。目に見えないのにピリピリしてるのを感じるって、いったいどういうメカニズムなんだろう?
「おれ、そろそろ帰るわ、さみぃし」
しょうちゃんが唐突に言った。ワガママを言ってみっちゃんに買ってもらった肉まんが、ぽろりと手から転げ落ちそうになった。
あのイルミネーションの大通りのまんなかだった。数学の再試で100点をとったわたしに、みっちゃんが「ご褒美だ」って連れてきてくれた場所。幻想的な青い光のなかで、しょうちゃんは怒った顔をしていた。
「唐突だな、松田」
みっちゃんが軽く言う。
「さみぃし」
紺から黒に染まりつつある空を見上げ、しょうちゃんはわざとらしく真っ白な息を吐いた。
本当に寒いから怒ってるのかもしれない。でも、きょう、みっちゃんとわたしは少し仲良くしすぎていたかもしれない。
ファミレスで隣どうしに座ってしまった。高校の話、けっこうしてしまった。休み明けのテスト対策をいっしょにやろうと約束してしまった。カラオケでデュエットをしてしまった。肉まんを買ってもらってしまった。みっちゃんの、どんぐりのようなニット帽を、いまもわたしがかぶっている……。
ダメだ、どこを思い返しても、明らかにみっちゃんとじゃれつきすぎてる。
天上天下唯我独尊、宇宙のどまんなかに居座りたいしょうちゃんが、こんなことを許せるはずがないのだ。
完全にテンパっていたよ。3人に慣れなくて、どう対応したらいいのかわからなくて、いちばんマズイことをしちゃったよ。
「じゃあな」
吐き捨てるように言ったしょうちゃんは、わたしたちの返事を待たないまま、青い光の向こうへと消えてしまった。
空気ってやつはほんとに不思議だ。目に見えないのにピリピリしてるのを感じるって、いったいどういうメカニズムなんだろう?
「おれ、そろそろ帰るわ、さみぃし」
しょうちゃんが唐突に言った。ワガママを言ってみっちゃんに買ってもらった肉まんが、ぽろりと手から転げ落ちそうになった。
あのイルミネーションの大通りのまんなかだった。数学の再試で100点をとったわたしに、みっちゃんが「ご褒美だ」って連れてきてくれた場所。幻想的な青い光のなかで、しょうちゃんは怒った顔をしていた。
「唐突だな、松田」
みっちゃんが軽く言う。
「さみぃし」
紺から黒に染まりつつある空を見上げ、しょうちゃんはわざとらしく真っ白な息を吐いた。
本当に寒いから怒ってるのかもしれない。でも、きょう、みっちゃんとわたしは少し仲良くしすぎていたかもしれない。
ファミレスで隣どうしに座ってしまった。高校の話、けっこうしてしまった。休み明けのテスト対策をいっしょにやろうと約束してしまった。カラオケでデュエットをしてしまった。肉まんを買ってもらってしまった。みっちゃんの、どんぐりのようなニット帽を、いまもわたしがかぶっている……。
ダメだ、どこを思い返しても、明らかにみっちゃんとじゃれつきすぎてる。
天上天下唯我独尊、宇宙のどまんなかに居座りたいしょうちゃんが、こんなことを許せるはずがないのだ。
完全にテンパっていたよ。3人に慣れなくて、どう対応したらいいのかわからなくて、いちばんマズイことをしちゃったよ。
「じゃあな」
吐き捨てるように言ったしょうちゃんは、わたしたちの返事を待たないまま、青い光の向こうへと消えてしまった。