空気ってやつはほんとに不思議だ。目に見えないのにピリピリしてるのを感じるって、いったいどういうメカニズムなんだろう?


「おれ、そろそろ帰るわ、さみぃし」


しょうちゃんが唐突に言った。ワガママを言ってみっちゃんに買ってもらった肉まんが、ぽろりと手から転げ落ちそうになった。

あのイルミネーションの大通りのまんなかだった。数学の再試で100点をとったわたしに、みっちゃんが「ご褒美だ」って連れてきてくれた場所。幻想的な青い光のなかで、しょうちゃんは怒った顔をしていた。


「唐突だな、松田」


みっちゃんが軽く言う。


「さみぃし」


紺から黒に染まりつつある空を見上げ、しょうちゃんはわざとらしく真っ白な息を吐いた。

本当に寒いから怒ってるのかもしれない。でも、きょう、みっちゃんとわたしは少し仲良くしすぎていたかもしれない。

ファミレスで隣どうしに座ってしまった。高校の話、けっこうしてしまった。休み明けのテスト対策をいっしょにやろうと約束してしまった。カラオケでデュエットをしてしまった。肉まんを買ってもらってしまった。みっちゃんの、どんぐりのようなニット帽を、いまもわたしがかぶっている……。

ダメだ、どこを思い返しても、明らかにみっちゃんとじゃれつきすぎてる。

天上天下唯我独尊、宇宙のどまんなかに居座りたいしょうちゃんが、こんなことを許せるはずがないのだ。

完全にテンパっていたよ。3人に慣れなくて、どう対応したらいいのかわからなくて、いちばんマズイことをしちゃったよ。


「じゃあな」


吐き捨てるように言ったしょうちゃんは、わたしたちの返事を待たないまま、青い光の向こうへと消えてしまった。