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ちろちろ、積もらないていどにかわいい雪が降っている。12月30日。今回の帰省の指定日は、年末ぎりぎりだった。


「さみぃ」


とても目立つ、鮮やかな青のダウンジャケットを着こみ、肩をすくめる野球少年は、刃物のように不機嫌な顔を浮かべている。


「ね、さみぃ、ね」


がんばって返事をしたけど、それに対する返事はなかった。どうやらわたしの想像以上に虫の居所が悪いみたい。

しょうちゃんはものすごく冬が嫌いだ。寒いときはめちゃくちゃに機嫌が悪くなるからわかりやすい。本人いわく「7月生まれだから」らしいけど、生まれ月と季節の好き嫌いって関係あるのかな?

でも、球児だし、暑いのがダメってよりは何倍もいいか。こんなふうに怒った顔されるとどうしたらいいかわからなくなるけど、いっしょにいてくれるし、それもまあいいか。


「みっちゃん、遅いね」


なにを話したらいいのかわからなくて、やっとのことで声を出したけど、出す話題は完全に間違えたなってその瞬間に思った。

しょうちゃんはそのかわいいたれ目を半分だけ開いて、いかにもだるそうにわたしを横目で見た。


「……迎えに行ってくるわ」

「えっ」

「奈歩はここで待っとけ」


たまにぽこっと出る関西弁、新鮮で、聞くたびにどぎまぎしてしまう。「待っとけ」のイントネーションが関西のそれで、しょうちゃんはすっかり大阪の人になってしまったんだなあと実感した。

少しさみしくて、でも、どこかうれしい。


「寒いからコンビニ入っとけよ」


ぶっきらぼうに言い残していった青いダウンジャケットを、わたしは見えなくなるまで眺めていた。