「奈歩は?」


ふいにみっちゃんが口を開いた。


「え?」

「オトコつくらねーの」


秋の風に乗って涼しい声が運ばれてくる。

目の前にはみっちゃんの広い背中、わたしが揺られているのは彼の自転車のうしろ。この宇宙でどんな場所よりも心地いいのはここなのに、どうして思い浮かぶのはキタキツネに似た顔じゃないんだろう?


「……『つくらない』んじゃなくて、『できない』の!」


答えると、みっちゃんは弾むように笑った。


「そりゃそうか。こんだけおれにべったりじゃな」

「そうだよ、どうしてくれるの」

「おれのせいかよ」


みっちゃんのせいだよ。でも、わたしのせい。

みっちゃんを手放せないわたしと、それを知りながら隣にいるみっちゃんが、出会ってしまったせい。


「でも、みっちゃんとこうしてるのが楽しいから、いまはほんとにいいんだ、カレシ」


本心だった。だからなんとなくいつもより気恥ずかしくて、ごまかすように脚をバタバタと動かすと、わたしたちを運んでいる黒の車体が大きくぐらついた。


「あっぶねえ!」

「やーいやーい、運転ヘタクソ」

「振り落とすぞ、ばかやろう」


たしかにわたしたちは、不格好で、いびつで、おかしな関係なのかもしれない。まわりから見たら意味わかんないんだろうし、わたしってとんでもねえクソヤロウなんだと思う。

でも、そんなの跳ねっ返すくらいの強いものを、わたしたちはきっと持っているね。

強いもの――運命というおとぎ話を信じているわたしのこと、ほかの誰がバカにしても、みっちゃんだけは笑いながらうなずいてくれるはず。


赤と紺が混ざりあう空を見上げながら、背筋を伸ばして大きく息を吸った。中途半端な田舎の空気は、おいしいのかまずいのか、よくわかんないな。