相変わらずな自分に飽き飽きしながらすぐそこにある学ランをつかむと、そのあたたかい身体がふいに重心をかけてきた。
「ほかの子はいいよ」
学ラン越しに伝わる振動は、みっちゃんが声を出した証拠。
「いまは奈歩がいるから」
みっちゃんは、ほんとに、優しいひとだね。
「……なにそれえ」
「ん?」
「結婚するんだから『いま』だけじゃなくて『ずっと』でしょ」
「あはは、そうかぁ、忘れてたわ」
「こんな大事なこと忘れるなっ」
こういうバカげた話を、冗談みたいに笑ってくれるみっちゃんが好き。それでいてどこか本気でとらえてくれているみっちゃんが。
こんなにも大好きなみっちゃんのこと、いつか手放せる日がくるんだろうか。
本当はわかっている。こんなにも優しい男の子、わたしみたいな女がひとりじめしてたらいけないって。みっちゃんはもっと素敵な女の子とふつうに恋愛をするべきだって。
でも、わたしは、みっちゃんがいないと死んじゃうから。
そしてそれをみっちゃんもきっと知っていて、知っているくせに知らないふりをして、まるで自分が望んでいるかのように、こうして傍にいてくれるから。
だから、しょうがないの。
わたしは世界でいちばん最低な女だ。水樹くんの言うとおり、ほんとにクソヤロウだ。
ごめんね、と、心のなかでつぶやいた。
みっちゃん、優しいところ、利用するような真似してごめんね。