まだどこかあたたかい秋の風を感じながら、わたしは砂でべたついている身体を自転車の荷台で持て余していた。

球技大会は特になんのドラマもなく終わった。まあまあ楽しかったし、まあまあ疲れた。そんな感じ。ちなみに総合優勝は、先輩たちを抑えて2年7組が勝ち取った。


「あのさぁ、みっちゃん」

「なに?」


次々と変わっていく景色のなか、ハンドルを握る背の高い男が軽快に返事をする。


「みっちゃんって好きな子とかいないの?」


いきなり車体がぐらりと揺れた。うわ、みっちゃんてば、もしかして動揺してる?


「なんだよ? いきなり……」

「んーん。なんとなく気になっただけ。いままでみっちゃんとそういう話したことなかったなあって」


いつもおしゃべりなみっちゃんがめずらしく黙りこんでいるので、わたしは立て続けに口を開いた。


「彼女はいたことあるの?」

「……いちおう。中学のとき、ふたりくらい」


『くらい』ってなんだよ?

でも、そうかあ、ふたりか。意外だな。高校に入ってから、わりかしみっちゃんとはずっといっしょにいるけど、そういう浮いた話って聞いたことなかったから。

それとも、わたしが傍にいるから、ないのかな? これってまたゴウマンかな?


「なんでみっちゃんって彼女つくらないの?」


ためしに聞いてみる。


「『つくらない』んじゃなくて『できない』が正解な」


みっちゃんはうんざりしたように答えた。


「あ、それは失礼しましたぁ」

「誰のせいでできないと思ってんだよ?」


自転車を漕ぐみっちゃんの顔は見えないから、ほんとに怒ってるのか冗談で言ってるのか、ぜんぜんわからなくて不安になる。

やっぱりわたしのせいか……。そしてそれは決していい意味じゃなく、きっと、悪い意味で。

そう思ったら悲しい気持ちになった。さみしくもなった。それから最後に、やっぱりどうにもこわくなった。


「……もし、好きな子がいるなら、言ってね。その子が彼女になったら教えてね」


わたしはちゃんと邪魔にならないようにするから。ちゃんとするから。だからどうか、消えないでいてほしい。わたしを置いて遠くへ行ってしまわないでほしい。

そういう気持ちが透けて見えていたら、嫌だな。

こんなことばかり考えている自分を自覚しては、また自分勝手に不安になるから、わたしはダメなんだ。