それが3つめのアウト、しかも最後のアウトだったらしい。みっちゃんたちは2-0のスコアで快勝して、いかにも学校内の球技大会っぽい、だらりとした挨拶を交わしていた。


「ミツもね、川野さんのこと、きっと大好きだよ」


ふと、水樹くんがわざとらしく声をひそめて言った。


「知ってる。わたしたち相思相愛だもん」

「あー、そっかぁ」


マシュマロ男子がどこかあきれたように笑っているのを横目に、描いたばかりのみっちゃんの隣にハートマークを描きたす。紅茶を吸いこみながら片手間に描いていたから右側がへにゃりとつぶれてしまった。


「でもさ、カレシ・カノジョにはなんないんだね」

「ええ? いまさらそれ言う?」

「いやぁ、だって、学年の総意だよ。もしかしたら全校生徒かも」


それは大げさだよと言いかけて、みっちゃんとのことを普段からいろんな人に突っこまれているのを思い出す。


「みっちゃんとは、終わりたくないから、付き合わないよ」


なんとなくまじめな調子で返してしまった。

水樹くんは冗談を聞いているみたいに笑うけど、本当にこれは、いたってまじめな話で。

みっちゃんだけは失くさない。そう決めているから、こんなところでは間違えない。


「恋人期間ナシで、そのまま夫婦になる」


そう続けると、水樹くんは目を見開いて、肩をすくめた。


「マジでえ? そのあいだふたりとも誰とも付き合わねーの?」

「そういう困る質問は受け付けてないでぇす」

「うわあ、川野さんってけっこうクソヤロウだね」


きちんと自覚はあっても、面と向かって言われるとなかなかへこむね。クソヤロウって。しかも水樹くんに言われるのかってね。


でもわたしはみっちゃんに、ほかに彼女をつくらないでほしいとか、そういうたぐいのことを言ったことは一度だってないのだ。違う子と付き合うならそれでいいと思っている。ほんとはそのほうがいいとすら思っている。

だってわたしは、みっちゃんと“恋”はできないから。


「みっちゃんとわたしのあいだに恋愛感情はないから、いいんだよ。お互い別のところで“恋愛”して、そのあとで生涯を添い遂げるってことで」

「えー。でもそれってさ、お互い“恋愛”した相手と結婚したらいいんじゃね?」

「あーあ、水樹くんってほんとにヤなとこ突いてくる」


ほんとはそれがベストなんだと思うし、それはわたしだってちゃんとわかっている。

でも、わたしはきっと、みっちゃんを手放しては生きていけない。
あの心地よい涼しさがなくては、生きていけない。