「さっきまで狂ったように泣きわめいてたこと、覚えてるか?」

「ぜんぜん……覚えてない」

「なあ奈歩、おまえやばいよ」


どこか投げだすような、突き放すような言い方で、瞬間、ヒュッと呼吸が苦しくなる。

みっちゃんが大きく息を吐いた。ため息みたいに聞こえた。同時に心臓がばくばく暴れだした。


「すごい勢いで電話かかってきたんだ。メールも数件きてた。かけ直したら、おまえずっと泣いてて、なんかやばい感じで。おれの顔見るなりまたバカみたいに泣きだして……脚、血だらけだし。わけわかんねーよ」

「ごめん……」


今回ばかりは本当に迷惑をかけてしまった。いちばん醜いところを見せてしまった。

こんなわたしは、みっちゃんに、とうとう嫌われてしまったかもしれない。

心臓が鳴りやまない。ばくばく、どくどく、頭にまで響いてきて、もう爆発するんじゃないかってくらい。破裂してしまえばいい。わたしなんかこのまま消えてしまえばいい。みっちゃんに失望されたわたしなんか。

のどがからからに渇いている。


「おれの前で泣いたらいいって、前に言っただろ」


沸騰しかけている頭を、みっちゃんの涼しさがすうっと冷やした。


「奈歩が自分を傷つけてたら、悲しいよ」

「み、ちゃ」

「奈歩が死んだら、おれ、さみしいよ」


止まっていたはずのしょっぱい水滴がぼろぼろ流れ落ちてくる。


「だから、どうしようもなくなってこんなことする前に……」


みっちゃんの長い指が、少しためらって、そのあとでわたしの汚い傷をなぞった。


「……なあ奈歩、おれのとこ来て。いくらでも話そう。飽きるまでいっしょにいてやるから」


もう完璧に嫌われたと、思ったよ。わたしに期待してないみっちゃんにすら失望されてしまったって。

だから、不意打ちでそんなことを言われると、うれしくて、どうしたらいいのかわからない。

あのホワイトデーの日と同じ、その細い身体を包みこむ紫色のパーカーに体重をあずけると、みっちゃんはなんにも言わないで受け止めてくれた。抱きとめるけど、抱きしめないところがみっちゃんらしくて、やっぱり好きだって思った。