奈歩は歩くのがへたくそだって、そういえばみっちゃんに一度言われたことがある。そのときはなにを言われているのかわからなかったけど、なんとなくいまやっと納得した。わたしはたぶん歩くのがへたくそだ。


「……ねえ、みっちゃん」


白い息を目で追った先に、背の高いみっちゃんの顔があった。涼しげなキツネ顔がもう半分くらい、黒いマフラーに埋まってしまっている。ぞっとするほど真っ白な肌だな。わたしは、人のこと言えないけど。


「勉強、ありがとうね」


わざとおどけた言い方をした。感謝なんかを口にするのはどうにも照れくさくて。

いつもちゃんとありがとうって思っているけど、こういうことを面と向かって言うのはあんまり慣れていないのだ。でもそれを悟られたくない気もしている。アリガトウを言い慣れている女だと思われたい。


「満点な」


みっちゃんもおどけた言い方で返してきた。満点って、まさか、今度のテストの話?


「さ、さすがに満点はキビシイんじゃ……」

「誰が勉強見たと思ってんの?」


みっちゃん先生は、世界イチ優しいけど、やっぱり厳しいや。

ハァイって答えると、ヨシって言われた。

でも知っている。みっちゃんは、わたしが仮に赤点をとって再試になったって、絶対に怒ったりしないってこと。あきれながら、きっとまた勉強を見てくれるってこと。

だからこそ、手を抜かないでがんばろう。


「雪、けっこう積もるかなあ」

「どうだろうなあ」


白い息を吐きながら、月のしずくの最寄り駅を通り過ぎて、ひと駅ぶん。余分な運動をして帰るのはわたしたちのお決まりのパターンだ。