「バカじゃないの、10代の子相手に」

「あいにく、肝心の郁も10代なんでな」

「郁実ちゃんを取られるとでも思ってるの? あんたから自信を取ったら愛嬌しか残らないわよ、しっかりしなさいよ!」

「しかってことないだろ…」



もうちょっとほかに残るものあるだろ…。

悲しくなりながらグラスをすする。


別に取られるとは思っていない。

郁実の気持ちが健吾にあることくらい感じているし、見ていないところで裏切るような子じゃないこともわかっている。

ただ面白くないのだ。


郁実と彼女の兄の絶大な信頼を得て、健吾の存在を知りながらなお一途に郁実を想って、そのくせ健吾を疎むでもなく、あきれるほどフェアプレーで臨む、あの感じのいい青年が。

健吾にないものをたくさん持っていて、過去も今現在も、郁実ともっとも多くを共有しているといえる、あの存在が。

結局のところ、郁実と十分にお似合いで、客観的に見ても「なんで郁はあの子のことを好きにならなかったんだろう?」と不思議になるくらいの、あのふたりの距離感が。

ただ、面白くないのだ。



「要するにやきもちね?」

「言うな!」

「いい歳して、みっともない」

「郁の前ではぎりぎり出してねーよ、思うくらい自由だろ」

「そうね、それを私に言うのも自由よ。好きにしたら」



痛烈な皮肉に、さすがに黙る。

つい、以前の気安かった関係に甘えて、こういうミスをしでかす。

無神経だったと気づくのはしでかした後で、青井も営業職だけあって聞き上手なので、しゃべるだけしゃべって、反省だけが募る。


謝るのも侮辱にあたるかと迷っていると、テーブルに置いた携帯が短く震えた。

郁実からだ。



【靖人のおばさんが、健吾くんに会いたいって。呼べばよかったねってみんなで言ってるとこ】



ご丁寧に写真つきだ。

靖人の家族と、郁実。

豪勢な食卓を囲んで、郁実はカメラに向かって楽しそうにピースをしており、隣の靖人は、茶碗とお箸を手にそんな郁実を見ている。

"写真撮るほどのことかよ"というあきれ声が聞こえてきそうな、親しげで気負いのないワンシーン。

握りしめた手が震えた。