何度も力加減をミスって割り箸を貫通させたせいで、穴だらけになったきゅうりを見て、兄が嘆いた。
我が家には、リビングの隣に、仏間のある和室がある。
あまり使わないその部屋で、お盆の準備をしているところだった。
今日は迎え盆だ。
地域がらもあり、母が生きていた頃から、そんなに本気でお盆の準備をする家ではなく、お墓参りといつもよりいいお供えと、精霊馬を飾るくらいで、簡単に済ます。
「お墓行く前に、和菓子屋さん行ってこようかな」
「あ、そうだな、俺ほかも掃除しとくから、頼めるか」
「うん」
近所の和菓子屋さんでは、夏になると、涼やかな水色の練り切りが出る。
母はそういう、季節を感じられるお菓子が好きだった。
「お父さんの分は、また適当でいいのかな」
「いいだろ、好みなんて覚えてないし」
「お母さん、なにお供えしてたっけね?」
「自分の好きなもの供えてた」
「自由だね」
仏壇から位牌や香炉を取り出して私に渡しながら、「いや、そういうわけでもなくて」と兄が答える。
「どういうこと?」
「『なに食べたい?』って聞くと、『きみの好きなものを』って答える人だったんだってさ、父さん」
うわ、素敵な旦那! と思いかけて、おや、と気づく。
「それ、”なんでもいい”をちょっとうまく言っただけだね」
「そう。だから母さんは、そういう調子ばっかりいい父さんへってことで、自分の好きなものばかり供えたわけ」
「仲のいい夫婦だなあ」
「まったくな」
乾いた布で仏具を拭きながら笑った。
仏壇の中を拭いていた兄が、ふと振り返る。
「明るいな、お前」
靖人と同じようなこと言ってる。
私は兄に向かって、にこ、と笑ってみせた。
我が家には、リビングの隣に、仏間のある和室がある。
あまり使わないその部屋で、お盆の準備をしているところだった。
今日は迎え盆だ。
地域がらもあり、母が生きていた頃から、そんなに本気でお盆の準備をする家ではなく、お墓参りといつもよりいいお供えと、精霊馬を飾るくらいで、簡単に済ます。
「お墓行く前に、和菓子屋さん行ってこようかな」
「あ、そうだな、俺ほかも掃除しとくから、頼めるか」
「うん」
近所の和菓子屋さんでは、夏になると、涼やかな水色の練り切りが出る。
母はそういう、季節を感じられるお菓子が好きだった。
「お父さんの分は、また適当でいいのかな」
「いいだろ、好みなんて覚えてないし」
「お母さん、なにお供えしてたっけね?」
「自分の好きなもの供えてた」
「自由だね」
仏壇から位牌や香炉を取り出して私に渡しながら、「いや、そういうわけでもなくて」と兄が答える。
「どういうこと?」
「『なに食べたい?』って聞くと、『きみの好きなものを』って答える人だったんだってさ、父さん」
うわ、素敵な旦那! と思いかけて、おや、と気づく。
「それ、”なんでもいい”をちょっとうまく言っただけだね」
「そう。だから母さんは、そういう調子ばっかりいい父さんへってことで、自分の好きなものばかり供えたわけ」
「仲のいい夫婦だなあ」
「まったくな」
乾いた布で仏具を拭きながら笑った。
仏壇の中を拭いていた兄が、ふと振り返る。
「明るいな、お前」
靖人と同じようなこと言ってる。
私は兄に向かって、にこ、と笑ってみせた。