「は?」

「お見舞い、行こうよ」

なんでこんなことを言ってしまったのだろうと思いながら、どこかで納得する。
そうか、渡が両親と不仲な理由に病気の義姉のことがあるとしたら、そこを改善してみるのは手じゃないか?そんなことを思ったのだ。

自分で納得すると、頭は回転するもので、僕は渡にたたみかける。

「お姉さんのお見舞い、実はしょっちゅう行ってたんだろ?」

渡は押し黙る。図星みたいだ。
眉をひそめ、随分言いよどんでから、渡はようやく唇を開いた。

「深空(みそら)……義姉はもうかれこれ3年寝たきりだ。意識が戻らない。だから、俺が顔を見せてもわからない」

「深空さんって言うんだ」

彼女の名前を初めて聞き、それを知ることができたことにかすかな喜びを感じる。

「それに、また、面倒ごとになるのは目に見えてるさ」

渡が言い、僕は渡を掴み上げた男性の姿が浮かんだ。

「あの人は……?」

「深空の兄貴。俺とは血が繋がってない」

確か渡は深空を義理の姉だと言った。詳しくは聞けないでいるけれど、渡の嫌がる家庭の事情が関係していることは間違いない。

「あの男は啓治(けいじ)って言うんだ。……あいつは、俺のせいで深空がああなったから、俺のことを殺したいくらい憎んでる」

渡のせいで……引っかからなかったわけではないけれど、本人が言わない以上は聞けない。