雪を踏むふたつの足音以外、白銀の森に鳴るものはなかった。
草も、土も、岩も、白い輝きを放ちながら息をひそめている。時々、木の枝に積もった雪のかたまりが地面に落ちて、ぼすっとやけに大きく響いた。
「きれい。別世界に迷いこんだみたいだね」
「タマちゃん、すべらないように気をつけて」
わたしの手はさっきからずっと、ノアに握られたままだ。彼はわたしの少し前を歩きながら、何度も振り返って確認する。
「ゆっくり行こう」
「うん」
ゆっくり、一歩ずつ。ノアがつけた足跡の上に、自分の足跡を重ねるように歩く。
静かな森に、ふたりきり。発する声は雪に吸いこまれていきそうだった。
「あっ。タマちゃん、あれ見て」
突然、ノアが前方を指さした。その方向を追って見ると、雪景色に同化しそうな白い生き物が、木のかげから顔をのぞかせていた。
まんまるのフォルムに、ぴんと上を向いて主張する耳、黒いボタンを縫いつけたような目、そしてひくひくと動く鼻。
「えっ、もしかしてウサギ!?」