――『俺と環は、男兄弟みたいなもんだよ』


周囲に冷やかされ、そんな風に否定しながらも、翼とわたしはいつもニコイチだった。

そう、いつも二人だったんだ。高校に入学し、美那子に出逢うまでは。

彼女が加わったことで“二人”が“三人”になり、そしてわたしの気づかないうちに、翼はまた“二人”になっていた。

わたしとじゃなく、美那子の方と。


「翼、中学からほとんど変わってないね」


甲高い美那子の声が耳にまとわりつく。

息が……苦しい。
酸素がやけに薄く感じて、きっとトンネルの中にいるせいだと、わたしは自分に言い聞かせた。


  ***


N駅に到着して電車をおりると、空気が硬く感じるほどの寒さだった。

ここからスキー場までは高速バスだ。


「もしもし。うん、ちゃんと着いたよ。ナオはどう? 泣いてない? ……そう、よかった」


家族に電話をかけた雄大くんが、少し離れた場所で話している。
ナオっていうのは、さっき言ってた小さい妹さんのことだろう。無口男子も家では優しいお兄ちゃんらしい。


「あ、もしもし、お姉ちゃん? わたしー。今駅に着いたから、パパたちにも伝えといてね」


美那子も自宅に電話中だ。わたしんちと違って、みんな家族仲がいいんだなあ。

気にしないふりをして、わたしは駅構内を見回した。
えっと、バス乗り場は……。

慣れない土地の駅ってややこしい。首をひねりながら案内図を見ていると、

「――わっ、何」

突然、翼に腕をつまかれた。