山道を駆け下りる足取りは、驚くほどに軽かった。今なら魔女のホウキに乗って空を飛べちゃうかもしれない。

目の前の景色が光の粒子をまとったみたいに、昨日までと違って見える。それはきっと、雪が積もっているせいだけじゃないはずだ。


――『次からはそうしろ』


初めて勝也さんが、わたしの存在をちょっとだけ認めてくれた。それはささいな変化だけど、わたしが勇気を出して伝えた結果なんだ。

集落にたどり着くと、見覚えのある小さな背中を見つけた。

空き地に放置されたタイヤの上に、ひとりぼっちで座っている後ろ姿。

わたしはさっきまでのハイテンションを落ち着かせ、その背中に呼びかけた。


「トモくん」


即座に振り向く、幼い顔。


「あ、タマちゃん」


いつのまにかトモくんも、わたしをタマちゃんと呼ぶようになっている。まあ、お姉ちゃんと呼ばれるよりは照れくさくなくていいけど。


「何してんの? こんなとこに、ひとりで」

「ううん、別に」


とトモくんは答えたものの、今まで考え事をしていたのが表情で見て取れた。

そしてきっと、その考え事の内容は、好きな女の子やケンカした友達のことだろう。