チッ、と舌打ちの音が聞こえた。続いて、雪を踏みしめる音が聞こえ、勝也さんの足が視界のすみを動く。

勝也さんは無言だった。言葉で拒絶する必要すらないほどの無言だった。

わたしの横をすり抜けた勝也さんが、玄関のドアを開ける。その音を、わたしは頭を下げた体勢のまま聞いた。

……やっぱり、許してくれなかったか。

思わず唇からため息がもれかけた、そのとき。


「チャイムは壊れてないぞ」


え――?


「強く押せば、ちゃんと音が鳴る。次からはそうしろ」


わたしは勢いよく頭を上げて振り返った。勝也さんの後ろ姿は、すでにドアの向こうに消えかけている。

はっきりと許してくれたわけじゃない。歓迎の言葉をもらったわけでもない。
だけど、「次からはそうしろ」と言ってくれた。

それはつまり、わたしがノアに会いにくるのを認めてくれたってこと?


「……ありがとうございますっ!」


閉まったドアに向けて、わたしはもう一度、深々とお辞儀をした。


   ***