彼はまたしても、あの場所――初対面のときに「踏むな」と怒られた場所を、ぼんやりと見つめていた。
そして、わたしに気づいてこちらを向き、いつものように目じりを吊り上げる。
「お、おじゃましてます」
「目障りだと昨日言わなかったか?」
勇気を出してあいさつしたのに、返ってきた言葉はそれだった。
何なの、本当にこの人……。そこまでわたしのことを邪険にする必要があるんだろうか。
たしかに、その場所を踏んでしまったのは悪かったけど、そんなの知らないんだから仕方ないじゃん。わたしが悪いわけじゃないじゃん。
そこまで一気に考えて、わたしはハッと気づいた。
わたし……今まさに、ねじれた世界を自分で作っていなかった?
勝也さんの態度は、たしかにいい気分のするものじゃない。だけど、わたしがこんなにも嫌な気分になっているのは、本当はなぜ?
本当の自分の気持ちは?
――勝也さんの怒りを解いて、堂々とノアに会いに来たい。
そうだ。本当はそれが望みなんだ。
だったら、心の中で勝也さんの悪口を言っている場合じゃない。わたしがするべきことは、きちんと気持ちを伝えることだ。