「………」


思わず黙ってしまったのは、ふたつの感情がわたしの胸に絡まったからだ。

ひとつめは、嬉しさ。わたしと過ごす時間をそんな風に言ってくれることに対しての。

そして、ふたつめは――寂しさ。

わたしたちが一緒にいる今は、ずっと続くものじゃない。嘘をついて逃げ出したわたしのタイムリミットは刻々と迫っている。

それを誰よりもわかっているのは、わたし自身だった。

でも、どうしてそれが寂しいだなんて、わたしは思ってしまうんだろう。


「……まだ帰らないよ」


わたしはかすれた声でつぶやいて、それから、にっこりと笑顔を作った。


「そうだ。何かお手伝いすることない? たとえば掃除とか」

「そんな気を遣わなくていいよ」

「遣ってないし。風邪ひきの原因はわたしにもあるんだから、このくらいさせてよ。掃除機はどこ?」

「たしか……階段の下にホウキがあったと思う」


そのあいまいな口ぶりから察すると、今までろくに掃除をしていなかったんだろう。これだから男子は。

なんて、わたしも家にいるときは「自分の部屋くらい掃除くらいしなさい」っていつも怒られてたんだけどさ。