コンコンと窓ガラスを鳴らすと、ほどなくしてノアが顔を出した。
「タマちゃん」
わたしを見たノアの顔に、喜色が浮かぶ。
自分に対してこんな表情をしてくれる人がいる、ということが、どうしようもなくわたしを嬉しくさせる。
「鍵、開いてるから玄関から入って。勝也さんはさっき出かけたよ」
そう言ったノアの声は、いつもよりどこか弱々しい気がした。
玄関で靴を脱ぎながら、わたしの胸に不安がよぎる。もしかして昨日、水に濡れたせいで風邪をひいてしまったんだろうか。
その心配は、ノアの部屋に入った瞬間、確信に変わった。
ベッドの上で乱れたままの毛布。シーツには微かにくぼんだ跡があり、今しがたまで寝ていたということが見て取れる。
「ノア、体調悪いの?」
「平気だよ」
と言ったそばから、よろりと体が傾くノア。
「あー、ほら! やっぱ風邪ひいてんじゃん」
「大丈夫だって」
「無理しないでいいから寝ててよ」
「つまんねえの」
無理やり布団に押しこまれたノアが、不満そうな声を出す。
「せっかくタマちゃんといられる貴重な時間なのに」