人はいつも、自分の内側の声を無視して、外側に原因を作ってしまう。

本当の願いを口にする代わりに、他人の行いや環境を責めてしまう。

そうして自分でも気づかないうちに、ねじれた世界を作り上げてしまう。

そんな感じのことを、噛み砕いた口調で実里さんは言った。


その話は少し難しくて、わたしの頭ではちゃんと理解しきれなかった。けれど、不思議と心に染み込んでいく。


「それで、旦那にちゃんと話したら、あいつなりに時間を作ってくれるようになってね。よく考えるとそれまでのわたしって、不満ばっかで何も見えてなかったんだよね。

だからそれ以来、自分の本当の気持ちが何なのか、心に問いかけるようにしてるんだ。相手がどうこう、じゃなくて、自分はどうしたいのか。まあ、今でも旦那のことガーッと責めちゃうときもあるんだけど」


そう言ってまた、けたけた笑い声を上げる実里さん。わたしはそれを見ながら、胸に手を押し当てた。

たしかに……翼たちに対しては、ねじれた世界を私自身が作っていたと思う。胸が苦しいのは翼と美那子が付き合い始めたせいだ、と以前は思っていた。

けれど昨日、自分の本当の気持ちを自覚したせいか、もう前ほどの苦しさは感じない。

現実は何も変わっていないのに、わたしの感じる世界は変わったんだ。