「サトシに、昨日マナちゃんと遊んだ帰りに偶然会って。そのとき、あいつが俺に訊いてきたんだ。その……俺がマナちゃんのこと好きなんだろって」
「うん」
「でも、マナちゃんとサトシは両想いだから、俺には勝ち目なんてないんだ。だから俺、好きじゃないって言ったのに、サトシがしつこくて……。
正直に言えって何回も言ってくるから、俺、頭にきてあいつのこと突き飛ばしたんだ」
「そっか。トモは、なんで頭に来たの?」
「えっ? だ、だって……ムカつくのが普通じゃない? 俺、まちがってる?」
「ううん。まちがってはないよ。ただ、なんでトモは嫌だったのか、自分でわかる?」
「サトシが悪いんだよ。自分は両想いのくせに、いちいち俺の気持ちを聞いてくるんだから。俺が正直になったら、みんなが嫌な想いするじゃん」
「うん、たしかに、その状況ならそう思うよね。じゃあ、状況のことは置いといて、トモ自身は本当はどうしたかったの?」
「………」
実里さんの質問は、そばで聞いているわたしにも難しかった。わたしはなんだかハラハラした。
トモくんが再び黙りこみ、実里さんも何も言わない。
長い長い沈黙のあと、トモくんがボソリとつぶやいた。
「……俺は、マナちゃんが好きだけど、サトシとも友達でいたいんだ」
「そうか」
実里さんの優しい声が、ふわっと響いた。