「息子には、わたしからよく言って聞かせます。そして本人から必ず、サトシくんにきちんと謝罪をさせます。……今日は主人が留守にしておりますので、後日改めてお詫びに伺わせてください」
「な、何よ、その態度っ――」
「サトシくん、本当にごめんね」
食い下がるオバサンから視線を移し、実里さんがやさしい声で言った。
ビクンと肩を一瞬震わせた男の子は、今にも泣きそうな表情で首をブンブン振ると、オバサンの腕を引っ張る。
「ママ、もう行こうよ。こんなの嫌だよ、俺」
息子に懇願されると、さすがのオバサンもひるんでしまうらしい。彼女は歯軋りを数回すると、ふんっ! と大きな鼻息を置き土産にして帰って行った。
玄関のドアが閉まったとたん、実里さんの背中から力が抜けたのがわかった。
ほぼ同時に、わたしの足元で床板が小さく軋み、実里さんがこちらを振り向く。
「あ、タマちゃん。おはよ」
「おはようございます。……あの、大丈夫ですか?」
「見られちゃった?」
「すみません、見ちゃいました」
「あはは。恥ずかしー」
けたけた笑う顔は、いつも通りだ。