突然の一陣の風が、山頂からゴオッと雪崩のように吹き抜けた。

あっ、と思ったときにはもう、写真は宙を舞っていた。

冷たい風が容赦なく襲い、わたしから奪い去るように写真を散り散りにしていく。

追いかけなくちゃ、そう思うのに、なぜか足がすくんで動けなかった。

そんなわたしの真横を、一瞬の閃光のように何かが通り抜けた。


「えっ……ノアっ」


金色の髪が大きく揺れる。茜色の景色の中、そこだけが輝いてまぶしい。

写真を追いかけて走っていく後ろ姿に、わたしは思わず叫んだ。


「い……いいよ! 拾わなくてもっ」

「いいことない!」


間髪入れず返ってきた言葉に、ぐっと喉が詰まる。

木の葉のように舞う写真は、ノアを翻弄するように何度も彼の手をすり抜けた。

けれど彼は一心不乱にそれらを追いかける。道路に散らばった思い出の欠片を、必死に拾い集めていく。

再び風が吹きつけ、数枚の写真が田んぼの用水路へと落ちた。十二月の今、そこは氷のように冷たいだろう。

だけどノアは寸分の迷いもなく、飛び込んだ。


「ノアっ!」


わたしは用水路のそばへと駆け寄った。

目の奥がなぜか熱い。心臓が暴れている。心がぐちゃぐちゃで、色んな感情があふれ出しそうだ。