結局、その日は目的の場所を見つけることはできなかった。
だけど、ノアと森を探検するだけでも楽しくて、八歳のあの日に帰ったような充実感を得られた。
「ああ、お腹ぺこぺこ」
森の入り口のフェンスを抜け、神社の脇の道を歩きながら、わたしは言った。
ついさっきお昼を食べたばかりの気がするけど、空にはすでに茜色の雲が浮かんでいる。
遊びに夢中になって時間を忘れるなんて、子どもの頃以来だ。
「タマちゃんって、民宿に泊まってるんだっけ?」
「うん。そこのお母さんがね、見た目ギャルなんだけど、すごい料理がうまいんだ」
今日の夕飯はきりたんぽ鍋だって、実里さんが朝言っていた。
鍋と言えば寄せ鍋かキムチ鍋くらいしか食べたことのないわたしは、初めてのきりたんぽ鍋を朝から楽しみにしていたのだ。
それをノアに伝えると、彼は何かを思いついたように足を止めた。
「きりたんぽ鍋なら、セリを入れると美味しいらしいよ。タマちゃん、ちょっと待ってて」
「えっ、どこ行くの?」
「セリが生えてる場所、知ってるから採ってくる」
すぐに戻るよ! と言い残し、ピューッと森の方へ再び走っていくノア。